本当は自由で懐が深い “人を生かす茶道”と
キャッチレスピアスのポテンシャル

今回フォーカスを当てるのは、茶道家の小堀宗翔さん。安土桃山時代から江戸時代初期に、 大名茶人として「遠州流茶道」を確立した小堀遠州の直系の子孫として、茶の心をいまに伝えるべく、日々さまざまな活動を行っています。
普段からバックレスを愛用しているという彼女の視点から、茶道の本質とキャッチレスピアスとの共通項が見えてきました。

茶道には世界で戦える力がある

宗翔さんが本格的に茶道を始めたのは、大学を卒業した後。
在学中はラクロスの選手として活躍し、2013年には日本代表としてワールドカップ出場も経験しました。

一見すると華々しいキャリアを歩んできたように見えますが、
実際は「いろいろな壁にぶつかることのほうが多かった」と言います。
その最たるものが、練習試合でアメリカ代表と対戦した時のこと。

「相手は世界一のチーム。自分たちのやりたいプレーがさせてもらえず。ダブルスコアでボロボロに負けたんです。あの時は本当に、心が折れそうでした」。

そんな中、思いもよらぬ出来事が起こります。

「いつでもお茶を点てられるようにと、道具を遠征先に持って行ってたんです。
試合が終わってホテルに戻った後、『JAPAN』のTシャツ姿でお茶を点てて皆とダラダラしていたら、
それを見た海外の人たちが集まってきたんです。
『どうやって飲むの?』とか『飲んでみたい』と、茶道に興味を持ってくれた。
日本の伝統的な文化に対するリスペクトを示してくれたんです。
その時に初めて、自分が“日本代表”として認められたように感じました」。

自信を失いかけるほどの挫折と同時に、お茶には人の心を救う力があることを肌で感じた宗翔さんは、そこから本格的に茶道の世界へ飛び込んでいきます。

竹の心を大事にしなさい

「朝起きたらまず、稽古場の準備をして、9時から会社のミーティング。 スタッフの皆さんとお茶を飲みながら、その日のスケジュールの確認などをします。
その後は着物を着て、お茶会やお稽古の時間、という日常です」。


プライベートのときの格好は普通の洋服で、髪も結ばないようにしているそう。そこにはれっきとした理由があります。

「着物に着替える時に、腰紐を結んだり、かんざしを挿したり、髪を結んだりっていう作業の一つひとつが、 茶室に向かう前にスイッチを入れる大切なルーティンになっています」。

茶室までの庭を歩くときの一歩一歩にはじまり、小さな戸口をゆっくりくぐること、 丁寧にお辞儀をすること……などなど、一服のお茶を飲むまでにはさまざまなプロセスがあります。 その一つひとつに集中することで、余計なこと考えなくなるわけです。

「心に何もない状態で茶室に入り、お茶をいただくときは自分と向き合うことに集中しなければなりません。
お茶をいただくまでの過程も、それぞれが背負っているものや、心の中にあるチリやホコリを振りほどいていく大切な作業なんです」。


そういったマインドは、勝負の世界に身を置くアスリートにとっても見習うところがあります。宗翔さん自身がそうだったように。

「戦国時代の武将は、戦の前に茶室で一つの茶碗を回し飲みすることで、兵たちの結束を高め、 その後生きて戻ってこられた時に、お茶で安堵の一服をしたといいます。 現代のアスリートやビジネスをされている方も、同じように戦いの日々を送っているはず。
そんな人たちが時を忘れて本当に自分と向き合う拠りどころとして、茶道があればいいなと思っています」。

人生にはさまざまなことが起こります。同時に心にも、さまざまな変化が起きるものです。 いくら頑張ったところで、抗えない状況に直面することもあるでしょう。

「小さい頃、先代である祖父に『竹の心を大事にしなさい』と言われたことがあります。 竹というのは1本まっすぐに伸びているけれど、風が吹けばゆらゆらと揺れますよね。 雨が降れば雨露に濡れるし、雪が降ればその重さでしなるもの。
けれど、雪解けすれば真っ直ぐに伸びる1本の竹に戻る。
これは『環境に応じて柔軟であれ』という茶の心を表すもので、今も私にとって気持ちを整理するための心の拠りどころになっています」。

成功するのも失敗するのも、どちらも当たり前。
それぞれが持っているものに関係なく、自分でコントロールできないことが要因となって状況が変化することなんてザラにあるものです。
大切なのは、とにかく折れないこと。

「私もラクロスをやっていた頃、相手に翻弄されたり、審判のジャッジに悩まされたりした経験があります。 そんな時、自分以外の環境にどうやって対応していくかって、すごく大事だなと思い知らされました。 だからこそ、アスリートが戦う武器のひとつとして、壁にぶつかった時に自分自身に立ち返る場所として茶道があればいいなと。 そんな想いで始めたのが、『アスリート茶会』です」。


ゴールは1つでも、プロセスは人それぞれ


茶道とスポーツの共通点。それは自分の心の内が、外へ反映されることだと言います。

「全く同じ所作をしても、全く同じお茶は点ちません。その日の気候に合わせてお湯の温度を変えたり、状況に合わせてアレンジする必要があります。
アスリートもそう。同じフォームでシュートを打っても同じコースには行かないし、調子が悪いなり工夫してプレーすることが求められる。
余計なことが気になってうまくいかないこともしょっちゅうです。
ちなみに私、趣味で乗馬をやっているんですけど、馬も人間と同じで感情があって、思いどおりに走ってくれることなんてほとんどありません。
ゴールが同じでも、そこに向かうプロセスが日によって違うのは当たり前なんです」。

静かな心で毎日お茶を立てることは「今日の自分はどうだったか」を気づかせてくれるきっかけに過ぎない。 日々の積み重ねが連なって、茶道という“道”なっていくのです。

「お茶碗を上から見てみてください。真円ではなく少し凹んだところがありますよね。 これは満月前夜の月である『十四日月』を表したもので、『明日、完璧になろうとそこへ向かっている時が一番エネルギーに溢れている』という状態を意味しています。 目標に向かう一歩手前が一番モチベーションに溢れていて、一番輝いている。その瞬間こそが一番尊い、と私は思っています」。

LIVE茶道とキャッチレスピアス

「茶道は堅苦しいとか言われるけど、本来は何でも受け入れる“器”があるもの」と宗翔さんは言います。 全く交わらないと思っていたものが茶道をとおして通じ合えれば、と考える彼女にとって、 バックレスのキャッチレスピアスはどう映っているのでしょう。

「本来ズボラな性格の私にとって、キャッチがないバックレスのピアスは、ありがたいとしか言いようがないですね。 自分の体の一部かのように付けているのも忘れるほどで、着物に着替えた後に鏡を見て気がつくなんてこともしょちゅうです」。

とはいえ、茶道ではお茶を点てる時にアクセサリーを身につけてはいけない、という約束があります。

「もちろん、私もアクセサリーや時計を付けてお茶を点てることはしていません。 なぜなら、お茶を点てている最中にピアスが落ちてお茶碗に当たってしまったり、時計や指輪が当たることでお茶碗を傷つけてしまいますよね。 それは、お茶を点てた人や器に対する敬意を示すことにはなりません。 そういった“型”があることって、実はすごくありがたいことなんですよ」。

決まりなく自由にやっていいよと言われても、元の型を知らなければアレンジしようがない。 間違えた時や迷った時に、立ち戻る場所があれば、そこには必ずヒントがあるものです。

「よく『着物にアクセサリーはアリですか』と聞かれますが、100%ノーとは言えません。 お茶を点てる時やいただく時はダメでも、それ以外のシチュエーションでつけるのは華やかになるのでむしろアリ。 『ファッションとして茶道』という視点は大切にしています。 遠州流が440年も続いてきたのは、その時代に“生きた茶道”を伝えてきたからだと思うんです。 昔の慣習のまま『あれもこれもダメ』と言っていたら、時代に取り残されてしまいますから」。

だからこそ、令和の時代に生きた茶道を伝えていきたいという宗翔さん。

「お茶碗や着物に対してかわいいと興味を持ってくれた人が『着物を着てみたい』とか『お茶を点ててみたい』というふうに、その時代の人や文化と結びついていくことを、私は『LIVE(ライブ)茶道』と呼んでいます。例えばバックレスのように落ちないピアスなら、茶室でも使えるかもしれませんし、『着物にピアスってかわいい』と感じてもらえるかもしれない。 そういう意味では、後世に茶道を伝えていく上ですごく可能性のあるアイテムだと思います」。

現在はアスリートだけでなく、一般の人たちまで幅広く「明日に力を与える人たち」という意味で「明日力人(アスリート)茶会」も開催している宗翔さん。そういった解釈の自由さも“茶の心”なのかもしれません。

「型があるからこそ、自由な発想やアイデアが生きてくる。そんなところに茶道の本質や懐の深さがあるような気がします」。

小堀宗翔さん愛用モデル
「Charisma Daria Gold」
「Amity Isa Gold」

■プロフィール
小堀宗翔 SOSHO KOBORI
1989年生まれ。東京都出身。
遠州茶道宗家13世家元の次女として茶道の普及につとめる。2013年、ラクロス日本代表としてワールドカップに出場。アスリートとしての自身の経験を元にアスリートに茶の心を伝える「アスリート茶会」など、さまざまな文化と茶道を結びつけるための活動を行なっている。

text by Soichi Toyama
photo by Akane Watanabe